ヤングアダルト(YA)小説の映画化 『ハンガー・ゲーム』以降の戦うヒロイン比較 (3) 作品

by - 4/25/2016


そもそも私がカットニスが好きで、『ダイバージェント』が好きになれないというところから、他のYA小説の映画化作品もそうなのかを検証するためにこれを始めたようなところがある。
そして今回、7作品を見比べてみたので感想をまとめる。見る箇所としては、戦うヒロインとしての、目的、戦闘能力、青春、ロマンスなど。


『ハンガー・ゲーム』 カットニス・エヴァディーン(ジェニファー・ローレンス)
16歳。妹の代わりに立候補して「ハンガー・ゲーム」に出場する。弓が得意。

カットニスは、家柄や能力に特別なことはなく、貧しい地区で育った少女という出。父親の死後、ふさぎこんで頼りない母親の代わりに一家を支えていて、妹を強く思う気持ちで「ハンガー・ゲーム」に出ることになった。目的は生き残ることだけだったけど、自分の生活する地区とキャピトルとの差を目の当たりにしたことや、スノウ大統領の自分勝手な言動を受けて、反発する気持ちを募らせるようになる。そして、ゲームに勝って時の人となったカットニスは、反政府軍のシンボルとして借り出される。そのときも、カットニスは家族の安全と、ピータを守ることを交換条件に申し出ていて、彼女にとってこの戦いは世界をどうこうしようということでなく、自分が生きる範囲内での戦いなのだと思った。原作を読んでいるから脳内で補っているところもあるけど、カットニスは思春期特有の自意識過剰なヒロインタイプでなく、物語の渦中にたまたま巻き込まれてしまってもマイペースを貫くところが好感持てる。


ロマンスとしては、幼なじみのゲイルとゲームで一緒に地区代表になったピータという2人が関係する。ゲイルは年上の相棒という感じ。ピータには昔食べるものがなくて道で倒れていたときにパンを分けてもらった恩があり、また同じ恐怖体験を味わった者同士としての結びつきができていく。一見、ヒロインが三角関係になって男の登場人物の取り合いになるという構造だけど、それとちょっと違うのは、この関係を動かす権限を持っているカットニスが常に恋愛脳ではないところ。彼女にとっては生き抜くことが第一優先で、気が向いたら相手に近づくという感じ。男からしたら辛すぎる。また、カットニスにとって、ピータは自分よりも弱いから守ってあげないといけないと思ってる関係性がいい。だけど一緒にいるうちに自分にはないピータの強い部分を知っていく(私がピータ派なので思い入れが偏っているかもだけど)。

ジェニファー・ローレンスもこれまで幼い妹弟を守る姉という役柄での演技が評価されていて、またぶりっ子や優等生じゃなくて、開けっぴろげでサバサバした性格もカットニスに合っていて相乗効果がよかった。子役出身のジョシュ・ハッチャーソンの演技に文句はないし、リアム・ヘムズワースも登場場面が少ないので、そんなに気にならない。


『ビューティフル・クリーチャーズ 光と闇に選ばれし者』 レナ・デュケイン(アリス・イングラート)
もうすぐ16歳。魔法使いの一族。16歳の誕生日に「光」か「闇」のどちらかに選ばれる。

レナはそこまで戦うってわけじゃない。魔法使い一族の「光」と「闇」の種族争いに巻き込まれるヒロイン。彼女を体を張って戦う代わりに、秘伝の書を読み解決を図る。そこらへんが、体力勝負じゃなくて文化系向きだと思った。本を読む子にとっては、感情移入しやすそう。しかも、魔法使いの衣装がゴスっ子なので、より文化系色を強めている。一部の子には強くはまれそうなポイントが多い。


ロマンスは、映画が男の子目線で始まることもあって、謎の転校に惹かれるというよくある構造。イーサンがけっこうガツガツ向かってくる系なので、レナは後手に回ることが多い印象。だけど、賢い女の子だから、ベタベタしすぎてなくていい。また、魔法使いらしく、ファンタジーでロマンチックな映像効果が美しい。高校生らしいイベントも多く、学園モノとしても楽しめる。

アリス・イングラートも、文化系な雰囲気が合う見た目で役に合っている。オールデン・エアエンライの恋している演技がすばらしい。いじわるなゾーイ・ドゥイッチ、三枚目のトーマス・マンもぴったり。


『ザ・ホスト 美しき侵略者』 メラニー・ストライダー/ワンダラー(ワンダ)(シアーシャ・ローナン)
21歳。エイリアンに侵略された地球で人間のまま生き残っていた。寄生されが魂が共存する。

『ザ・ホスト』がおもしろいのは、寄生したエイリアンと寄生された人間、2つの魂が共存するヒロインというところ。だからずっと心の声が聞こえる人みたいに、メラニーの声が聞こえている。思春期のホルモン過多な少女のように、脳内思考垂れ流しなのがかわいい。メラニーは生き残りの人間で反抗勢力の一員だから、戦闘力が高めで、離れ離れになってしまった弟のために必死なところもある。一方、ワンダは地球が初めてで、人間の文化に触れて感化される若い心の持ち主。初心な子が社会に出ていろんな人に触れることで、成長していくという青春モノの要素をワンダが担っている。


ロマンス部分は、1つの体に2つの魂があるので、かなり笑える状況。メラニーは弟と逃走中(16歳頃)に出会った人間のジャレドと恋愛関係にあるから、ワンダに寄生された状況でキスすることに怒るんだけど、だからといって、ワンダが好意を寄せるイアンとキスするのもいけない(体はメラニーだから)。ライバル関係もなく相手に恵まれるというかなり調子のいいロマンスだけど、この複雑さがちょっと違ったおもしろみを出している。

シアーシャ・ローナンは、『エンバー 失われた光の物語』『ラブリーボーン』とYA小説の映画化に何度も出ていて、アクションも経験者。この映画でのアクションはいまいちだったけど、2つの心をもつという複雑な役の演技には安心感があった。あと、優等生でしっかりしているイメージがあり、エイリアンの社会のかっちりした衣装が似合っていた。マックス・アイアンズとジェイク・アベルは可もなく不可もなく、シアーシャよりも大きくて強そうで頼りがいがある感じでよかった。私的には弟役のチャンドラー・カンタベリーがよかった。


『シャドウハンター』 クラリー・フレイ(リリー・コリンズ)
16歳。シャドウハンターであることがわかる。「伝説の聖杯」の鍵を握る。

クラリーは、運命で選ばれたヒロイン。特殊な力を持っていることがわかり、始めはとまどうけどだんたんとその力を使いこなしていく。戦う目的は母親を取り戻すことから始まるけど、だんたんと自分の生い立ちを知り、自立していくようになる。


ロマンスの演出が過剰で笑えた。屋上の温室で虫の光の演出でいい雰囲気になっていくところで、わかりやすく曲が盛り上がって、そしてスプリンクラー。この物語の三角関係はわかりやすくて、謎の危険な男ジェイスと親友でおたくっぽいサイモン。ジェイスがだんだんクラリーのことを好きになっていくのがときめくポイント?サイモンにやきもち焼いたりしてかわいい。

リリー・コリンズは、これまでにもこういう役やってなかった?って思うほど似合っていて、アクションにも違和感なかった。抜群のスタイルでヒロイン向きなオーラがあるけど、あの眉毛はじめ聡明そうな顔立ちなところでいいバランス。そして、ジェイミー・キャンベル・バウアーとの相性がいい。金髪で白い肌で謎めいたキャラクターという漫画みたいな設定に無理のないジェイミーがすごい。フィルモグラフィがいまいちなのはなんでだろう?そして、ロバート・シーハンもロバート・シーハンに求められているものを全部出してた感じ。それにしても、母親は『GoT』のサーセイって強すぎる。


『ヴァンパイア・アカデミー』 ローズ・ハサウェイ(ゾーイ・ドゥイッチ)
17歳。人間とヴァンパイアのハーフ。ストリゴイ族からモロイ族を守るガーディアン。

現代にヴァンパイアがいるという設定の中で、人間とヴァンパイアのハーフという生まれのローズ。温和なヴァンパイアのモロイ族を守る役目で、親友のリサと行動を共にしている。『ハリー・ポッター』×『トワイライト』という世界観でそれ以上のものがないのが残念だし、ドラマシリーズの『ティーン・ウルフ』より安っぽく見えてしまうところもやはり残念。戦うヒロイン像にしても、ロマンスにしても、すべてが中途半端でうまくかみ合ってなかった印象。ポスターはポップでかっこいいのに、中身が全然いけてなかった。


ゾーイ・ドゥイッチはかわいいし、アクションもできるんだけど、ヒロインのキャラクターが弱いので活かしきれてなかった感じ。ルーシー・フライは高級そうな見た目で合っていた。ちょっと固いところが柔らかいゾーイ・ドゥイッチとのバランスも取れてたと思う。サラ・ハイランドとサミ・ゲイルをもっと生かしてほしかった。男がいけてない中でキャメロン・モナハンがかわいかった。


『ダイバージェント』 ベアトリス・“トリス”・プライアー(シェイリーン・ウッドリー)
16歳。自分の資質を測るテストで「ダイバージェント」と診断された。

5つの資質で共同体がわかれている世界で、どの共同体に入るかは自分で選べるんだけど、その前にテストで資質を測定するという設定がおもしろい。だけどそれ以降、その資質という設定、またトリスが複数の資質を持つ「ダイバージェント」であるというのがあまり関係ない、よくあるディストピアもののように進んでいくので入り込めなかった。“無欲”だったところから“勇敢”を選ぶのも、意味があることのように思うけど、それが見ていてよくわからない。


適正が完璧に合っているわけでないから“勇敢”で苦労するトリスは、危険な香りのする教官“フォー”に次第に惹かれていくというのもよくあるロマンス。映画だと、フォーの年上の男の魅力がわかりやすいくらいに強調されている感じがして、マッチョなとこだったり、少女ファンにとってはうれしいのかもしれないけど、私は重い。しかもトリスがちょっと恋愛にはまりすぎにも見えて、戦うことだけに意識が向いてないのが印象。

恵まれた体型を持ったシェイリーン・ウッドリーにできないことではないんだけど、もっとできるでしょうと思ってしまう。マイルズ・テラーがいい息抜きとなってくれているからこの作品を見られるんだけど、出番少ないし、アンセル・エルゴートはもっと少ない。これくらいならそんなに有名じゃない若手でもよかったんじゃないかと思ってしまう。ゾーイ・クラヴィッツもいい味だしているのに出番が少ない。テオ・ジェームズは普通にYA小説の実写化に向いてそうなんだけど、他の出演者のレベルが高すぎて悪目立ちしてしまってかわいそう。


『フィフス・ウェイブ』 キャシー・サリヴァン(クロエ・グレース・モレッツ)
16歳。エイリアンの攻撃に合う地球で、離れ離れになった弟を探す。

戦うというよりは、生き延びるという方が近いかな。突然エイリアンが襲って来て、わけもわからずだんだん人が死んでいく。そんな中でキャシーは家族と離れ離れになってしまって、子どもたちが集められた施設に弟もいると思って助けに行く。理由もわからず攻撃されるので、どう戦うのがいいのかわからない中で、子どもたちが訓練され兵士になっていくのは見ているのが辛かった。


人間の姿をしていても、エイリアンに乗っ取られているかもしれなくて、誰も信じることができない中で、エヴァンに助けてもらい回復するまで住まわせてもらう。その前、エイリアンがやってくる前の普通の高校生だったころ、キャシーはアメフト部のベンに片思いしていた。エヴァンはキャシーの日記を読んでそのことを知っている。ちょっと年上でたくましくて頼りになるエヴァンにキャシーはだんだん惹かれていく。そして、弟を探しに行った施設で偶然ベンと再会すると同時にエヴァンの秘密を知り!?ってところで映画が終わった。

とにかく私は、クロエ・グレース・モレッツの仕事選びが好みじゃなくて、今回のも全然合ってない。最初の警戒しながら銃を構えている姿はさまになっているけど、明るいところ(普通の高校生部分)はすぐに終わって、ウェイブが始まってからはずっと険しい表情。明るいクロエちゃんが見たいんだよ。期待していたニック・ロビンソンもアメフト部に見えなくて、どう見ても2番手。自分より小さい子たちを率いてグループを指揮するところはかっこよかった。マイカ・モンローは、こんなできるんだってくらいかっこいい役をやってたけど、あれほとんど『ハンガー・ゲーム』のジョアンナ(ジェナ・マローン)だったよね。トニー・レヴォロリが抑えた演技でいい味だしていたから、もっと出番あればよかったのに。


まとめ
こうやって色々見てみると、YA小説の映画化において、『ハリー・ポッター』と『トワイライト』の影響を感じずにはいられない。特に、女の子が主人公ということがあって『トワイライト』は大きい。『トワイライト』は2008年に最初の作品が公開され、2012年に『ハンガー・ゲーム』が公開されたのと代わるようにシリーズが終わった。ロマンスの三角関係の構図は昔からあったのに、何か使い古されたように感じるのは『トワイライト』以降からな気がする。チーム・エドワード、チーム・ジェイコブって「あなたはどっち?」というのが盛り上がったのも懐かしい。また、ヴァンパイアや狼男というファンタジー要素を現代の物語に入れた作品も前からあったはずなのに、『トワイライト』以降だと二番煎じと言われてしまう感じ。

今回、7作品を観るのとあわせて途中までで止まっていた『トワイライト』シリーズも見てみたんだけど、他の作品と比べてもお金がかかっているからなのか、まあ観られる。狼の毛並みとかリアルすぎてやばいし、結婚式のセットもすごい豪華。また、音楽がいいってのも『トワイライト』の魅力の一つだと思う。こういうダークファンタジーって、上の作品の一部もそうだけど、ラウドなロックが使われがち(『ザ・ホスト』のImagine Dragonsはよかった)。なんだけど、『トワイライト』シリーズでは積極的にインディ系のアーティストをサントラに起用していて、ジャンルもフォークとかアコースティック系が多い。それが森深い背景と相性がよくて、ベラの心のもろさもうまく表してくれてた。

でも、ベラはやっぱり“戦う”ヒロインではない。そういう点で、このジャンルは『ハンガー・ゲーム』以降と区切るのがいいと思った。
次は、その『ハンガー・ゲーム』以降について考えてみる。

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