Die Welle / THE WAVE ウェイヴ ~全体主義と自由なひとりぼっち

by - 10/19/2015


ドイツの高校。社会科では1週間特別授業が行われる。主人公の教師ライナー・ベンガーは「独裁政治」について担当することになった。授業はいつもと変わりなく、積極的な生徒もいれば無関心な生徒もいる。ある生徒の「今の時代、独裁政治になることは二度とない」という発言をきっかけに、ライナーは生徒たちに独裁政治を実体験させることを思いつく。クラスはライナーを指導者として選び、彼の指導のもと、規律に従うことや全体主義を体験していく。白いシャツという制服や“ウェイヴ”のスローガンなどによって生徒たちは次第に団結を強めていき、“ウェイヴ”の規律に従う者は特別授業のクラス以外の生徒でも組織活動に参加するようになっていく。

独裁的な政治体制の下では体制批判は許されず、個人の自由は著しく制限される。民衆の意思表示は抑圧され、反対派は何らかの形で排除される。
wiki/独裁政治

授業中、不良グループのリーダー格の生徒が反抗すると、教師は「参加したくないなら出て行け」と言い、その生徒は出て行った。また途中、聡明な女子生徒が「授業にしてもこれはやりすぎ」と教師に提言するが、残り日数もわずかだし、このまま続けることとした。そして、彼女は授業に参加しなくなった。その後、不良グループの生徒は白シャツを着て“ウェイブ”の活動に参加するようになる。一方、白シャツを着ることを拒んだ生徒は、危険人物としてマークされるようになる。

ライナーは水球部のコーチを務めていて、この学校では水球は花形の部活動のよう。ライナーは試合の応援に来るように生徒たちに呼びかける。アメリカ学園映画で言ったら、フットボールの試合は学校全体で応援する行事のようになっているのが思い浮かぶ。ただアメリカ学園映画の場合だと、例え強制だとしても、行きたくない生徒は行かなかったり、行ったとしても外れた所で時間をつぶしているものだ。“ウェイヴ”の生徒たちは、もちろんみんなで応援に行こうと呼びかける。しかし“ウェイヴ”の規律に従わない生徒は排除する。参加する権利を与えないのだ。ライナー(指導者)に言われたわけではなく、生徒たちは自主的にそういう行動に出た。

絶対君主制との違いは世襲を伴わないことなどが挙げられる。専制政治では固定的または身分的な支配層が非支配層を支配するが(社会階級)、独裁では支配者と被支配者の身分は基本的には同一である。
wiki/独裁政治

“ウェイヴ”が誕生してから、それまで身分的に虐げられていた生徒が生きいきしだすのが特徴的だった。水球部のアラブ系の生徒や、クラスの中で地味で大人しかった生徒がそうだ。

高校には、独自の階級制のようなヒエラルキーが存在すると言われる。クラスの中で地味な存在だった生徒は、“ウェイヴ”によってクラスの一員として存在力が増した。しかし、実際には元からあったヒエラルキーはなくなってはいなくて、授業以外ではそれまでの仲間で過ごす様子は変わっていなかった。地味な生徒は“ウェイヴ”のパーティには参加してない。

10代は自分という個を見つめる時間だが、群れる、組織に入ることで、自分というものができた気になる。

人間の魅力というのは、その人が所属している集団から生まれるのではなく、あくまでもその人自身の技量や性格から生まれるもの。
蛭子能収 『ひとりぼっちを笑うな』

アイデンティティは、他人の評価ではなくて、自分自身の評価であるから意味があるもの。だけど、まわりに物や人が溢れ、多様な価値観や選択肢がある中で、自分を評価するというのは昔に比べてとてもハードルが上がっていると思う。

蛭子さんのようにきっぱりと割り切って生きられるのは、信念がそこにあるから。それは他の誰でもない自分が決めたもの。そして、自分で自分を決められるのは、自由があるから。蛭子さんの信念は「僕自身が自由であるためには、他人の自由も尊重しないといけない」というもの。

独裁政治下では、個人の自由は尊重されない。見せかけの平等に惑わされて力を得た気になっているだけなんだと思う。仲間以外を排除しているんだから、その信念に平等なんてないだろう。生徒たちは、それを学ぶために実験台にされた。ただ、あの地味な生徒にとって、自由なひとりぼっちでいることは誇れることではなかった。まだそれを考えられるだけの成長はできていなかった。だから、子どもたちをそんな環境に置いてはいけないんだと思う。

全体主義と闘うためには、唯一つの事を理解する必要がある。全体主義は、自由の最も根源的な否定であるということをだ。
(ハンナ・アーレント)

PS
蛭子さんはアメリカを信頼しているというエピソードが本に出てきた。「“個人の自由”というものを尊重している」「多様な価値観を認める懐の広い寛容性を持っている」そういう風にアメリカのことを考えてみるのもおもしろいと思った。

この映画は実際にアメリカの高校でナチス政権下のドイツが行なっていた全体主義を教えるために教師が行った授業を元にした小説を元にしたドイツ映画ってところもあわせて考えさせられる。


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